葛の花が咲きはじめたので。

08 29, 2017
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葉月 月齢7

沢で涼む。
心を洗う。

沢の音に耳を浸す。
森の光に身を晒す。


鹿の足跡が残されている。
そこに2本の指を重ねる。

微かに鹿の香りを感じる。
微かに暖かな温度を感じる。

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ふと我に返ると、南天の花が揺れていた。

それはある暑い日のことだった。
その日のことを私は、何となく忘れられずにいる。

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京都の夏も落ち着こうとしている。
黒猫のヤブさんの羽毛は未だに抜け続けている。ここまで夏を諦めなかったのか、ここに来て夏を手放したのかは私にはわからない。自分でコントロールできるものと、できないものがヤブさんにもあるのかもしれない。

(ヤブさん、夏が終わるよ。夏も終わるんだよ。)

私はもう暫くは沢に涼みにゆくけれど、葛の花が咲きはじめたのだから、新しい秋を迎える心持ちで出かけてゆくだろう。

秋の初まりは、いつもどこかノスタルジックで、過ごした夏を振り返る。


もうそんな季節。







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オニグルミとの日々。

06 20, 2017
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水無月 月齢25

大原を源流とする高野川の水は、京都市内出町柳で鴨川と合流する。その水は比叡山脇を通過し流れ、私たちの森暮らしの中でも大切な役割を果たしている。

私たちがこの地に越して来たのは春。陽射しが強くなりはじめの頃から、私はこの川沿いの道を歩くことを、日常の楽しみのひとつとしている。

オニグルミの樹々を見つけた時は嬉しくて小躍りした。そしてホッとした。クルミで作るあれやこれが頭に浮かぶ。クルミの季節が待ち遠しくて、クルミの花が咲く頃からずっと、私はクルミを観察し続けている。

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雄花序がぶら下がる頃になり、ふと気づく。4本のオニグルミの樹の中に雄花序があるものとないものがいる。

はてさて、、、

クルミは雌雄同株で、結実するのに雄花と雌花が必要だと思っていた。思い込んでいた。これは成長を見比べてゆく楽しみができたと、私は足しげく通っている。

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クルミの雌花序の先にあるベルベットな赤が好きだ。

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ひとつひとつみると地球外生物のようで。私にはわからない言葉を交わしているようで。

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なんだか、とても好きなのだ。

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そして、1ヶ月もすると、プックラと膨らんでくる。その頃になると、可愛い赤は退色し、代わりに桃色の産毛が実全体を覆う様になる。その柔らかな産毛が陽射しに照らされる姿が何とも幼さに色っぽさが足され、実に愛らしい。

この時点で、雄花序があった株となかった株の成長は顕著になっていった。雄花序がなかった株の実は成長はしているけれど、どれも小さい。それでも少しずつ大きくなっていった。

そして、クルミといったらノッチーノ(クルミの種子が形成される前に摘んで作られるスパイスの効いたクルミ酒)作りを意識し始める梅雨入りの頃。その成長の差は更に大きくなってきたのだった。

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↑雄花序がついた樹の果実
↓雄花序がつかなかった樹の果実


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雄花序のつかなかった樹の果実は、梅雨入り前くらいから落果しはじめていた。ちょうど梅がなる頃で、道ばたに転がる青いクルミの果実を「梅?」と夫は言った。

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踏まれて割れたのだろうか。その裂け目からタンニンが酸化して黒いインクのような色になっていた。これだもの、クルミのインクは簡単に作れるわけだ。久しぶりに作ろうかなと、私は脳裏に美しい艶黒のインクで白い便箋に言葉を描きはじめていた。

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ふたつ並ぶと成長の違いを改めて感じる。大きいから良いとか、成長が遅いから良くないとか、そんな観念は私の中にはない。
それは、生まれてからここまでの双方の歩みを見守って来たからだろう。

小さくも成長した実たちはインクや草木染めや薬作りに頂こう。大きい果実たちは少しだけ頂き、リスやイノシシたちに残そう。
それぞれを大切に頂こうと思う。


さて、ノッチーノ作りは6月24日と決まっている。セントジョバンニの祝日の深夜に果実を摘むのが習わしだ。今年の6月24日はちょうど新月に当たる。ちょっと特別なお酒になりそうだ。

月もいない夜に、青く真ん丸なオニグルミを摘む。あの独特な香りと、手に吸い付く感覚がより一層五感を刺激してきそうで、想像しただけで心が微笑む。

とその前に、摘みすぎない様に、必要分に適したサイズの瓶を取り出し、お酒を手に入れるとしましょうか。

蛍もまだ少し飛ぶことだろう。春から待ちわびたその時がやってくることを、私は今、心から楽しみに指折り数え日々を過ごしている。



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ヤマボウシの花と鹿のお尻と。

05 30, 2017
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皐月 月齢4


あまりにも白く愛らしいものだから、
私は夢中になっていたんだ。


キミが手の届きそうなところまで近づいていたことにも気づかないほど、
私は夢中になっていたんだ。


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私が驚いたものだから、キミも驚いて。


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あまりにも白くて愛らしいものだから、
私は夢中になってしまった。


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キミは、身体は山を向き、顔だけ残してこちらを見つめている。

私はカメラから顔を離す。


いつから私を見ていたんだい? 驚かせてごめんよ。でも、人に慣れてはいけないよ。山の奥にお帰り。

(本当はキミのその眉間や頬を撫で、首に抱きついてみたいのに。そしてキミの香りを感じたいのに。私は強がりを言う。キミが可哀想なことにならないように。)


随分と見つあっていた。時が止まっていたのかもしれない。

カケスが、ジャーと鳴いた。
ゆっくりと一歩、一歩と、キミが山の奥へ帰って行く姿を見送った。


・・・・・・・・・・・・・・・


夜になると、鹿の声が山に響く。
この森のどこかにキミがいる。


暗闇にぼぉっと浮かぶ、ヤマボウシの花とキミを描く。


私の内に白く愛らしいものたちが息づいた。
こうして今日もまた少し、私の中の森が育まれた。




この森にも蛍が舞いはじめ、夜の森が楽しみな季節の到来。
私の大好きな季節、梅雨がもうすぐやってくる。



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シャガ野原から白鳥たちが飛び立つと。

05 24, 2017
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皐月 月齢27


「山だと雑草よね。そこら中に咲いていて。有り難みもないわ。」



ここに引っ越して一ヶ月が経とうとしている。引っ越して来た日、家の前の沢沿いにシャガが辺り一面咲いていた。
数日前、シャガ野原になっていたその場所で、通りすがったふたりの会話が聞こえた。思わず振り向いた。私は何か言おうとしたのだが言葉にならず、遠のいてゆく人たちの気配まで消えても尚、シャガを見つめていた。

シャガは別名胡蝶花というが、私には白い鳥に見える。すっと入った僅かな色味が凛としていて、着物を着た女性に化けた白い鳥のようにも思える。


シャガは強い。
春の花は可憐で儚いものも多い中、シャガは長くその白い鳥の様な花を楽しめる。


先日素敵なご年配のご夫婦に出会った。おふたりが長い年月をかけて育てて来られたお庭にお邪魔させてもらった。小さなログハウスに、手入れの行き届いた見事な庭。立派な桜の樹の足元にシャガが咲きほころんでいるのに眼がいった。

桜の足元で土を保湿してくれるという。シャガの葉は常緑で厚い。なるほど、と唸った。 ターシャチューダーにどこか似ている奥様は、愛おしそうにシャガについて語ってくれた。

(実際、ターシャからいただいた種を育て、今もその花は庭に毎年咲くのだそうだ。)

シャガの白い花は、木陰に光りを集めるかの様に輝かしく咲く。私はそんなシャガが好きだ。



立ち止まったままシャガを見つめていた私は、あのご夫婦の笑顔に見た光りを、シャガの輝きに重ねていた。


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シャガ野原から白鳥たちが飛び立ち、あれほど明るかった木陰には、深翠の漣だけが揺れている。
見上げると桜の葉も、随分と色濃くなっていた。


これからも、そっと共に在らんことを。


私はそう願いながら歩き出し、小道に咲く小さな花々の名を、ひとつひとつ呼びながら家路についた。

優しい雨が降った日に。次の季節がもうそこまで来ている事を知る。







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雫がまたひとつ。

05 10, 2017
皐月 月齢13

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雨が降っている。

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雫がまたひとつ、生まれる。

ギボウシの葉が、揺れる。

流れてゆく。

を、眺めている。

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「コココココ、、、」

(ホオズキ風船を喉の奥にしまえたら、彼らのように歌えるだろか)

幼い頃、母がホオズキの中身を出して作るホオズキ風船を口の中で鳴らしてみせるものだから、私も私も、とせがんでやってみても上手くいかなかったっけ。試してみては飲み込んで、顔をクシャっとさせたっけ。


雨で身体に艶のでたニホンアカガエルは、嬉しそうに喉を震わせている。


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苔の大地に青モミジ。


「京都で雨に降られたら、ラッキーと思え。」ここに越してきてから読んだ本に書かれていた。
「ここらは雨が降ったら、もっと素敵だろうに。」ある晴天の日、すれ違った人たちの会話を耳にした。

(何も京都でなくても雨の日は美しいのにねぇ、、、)

私はそう思っていたけれど、こうして雨の日に歩いてみたならば、やっぱり「京都」と「雨」というキーワードは、屁理屈さえも包み込み、「ん、なるほど」、なのだった。

雨を喜べる暮らしを見失わずにいたい。そう思わないかい?


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雨が上がった。

雫がまたひとつ、姿を消す。





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Current Moon
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Coo

Author:Coo
森のある暮らしを綴ったフォトエッセイ。 裏高尾、筑波山を経て、現在 京都・比叡山にて。 森の事、野草や薬草のこと、森料理、日々のあれこれなど。 森の風があなたのもとにも届きます様に。

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