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花に触れる時も、鹿に触れる時も。

09 18, 2018
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Clematis terniflora

長月 月齢7 


腕を伸ばす。
触れる。

ただそれだけのことなのに。


触れそうで触れられない。

伸ばした腕の行き場を失う。

触れられない何かと、触れてはいけない何かが、息をのんで見つめ合っていた夜の出来事。




山に生きる野生の鹿に触れることが出来たなら。
そんな話をかつて山仲間たちと良くしたものだ。

ところが、いざその時が訪れると、私は触れる事が出来ない。
それが何故なのか、自分でもわからない。



体勢を取り直し闇に消えてゆくその姿を、見えなくなって尚見送くっていた。
罪悪感を抱きながら。




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あの夏の夜に出会った鹿を思い出しては、胸が痛くなる。


あの子に出会った場所は今、センニンソウの花が満開だ。


花に触れる時も、鹿に触れる時も、同じくありたい。
命への尊厳に触れる心持ちで。



センニンソウの花が散り、銀白色の羽毛が夕暮れの柔らかな光に照らされる姿が思い浮かぶ。

花を見つめながらも、その次の季節を感じている。





私の中に、センニンソウが息づいている。
私の息に、鹿の呼吸が重なっている。


私が私となり、と同時に、私が私でなくなってゆく。




歳を重ねるとは、そういうことなのかもしれない。






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暴風雨。

09 04, 2018
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長月 月齢24

風が生ぬるい朝。

急いで片付けを済ませ、ルーペをポッケに放り込み、カメラを掴むと急ぎ足で家を出た。

台風がやってくる。その前にどうしても会っておきたかった花があった。雨が降り出すまで、と心に決めていた。

空気が肌にまとわりつく。シャッターも重くなる。目当ての花までの道のりで、あれやこれやの薬草や実が誘惑してくる。

だもの、「先を急ぎますので」と断りきれない。
なので、花まで中々辿り着けない。
なぁに、今日に限った事ではない。
なのに、「今日に限って、、」と思ってしまう。

「仕方がありますまい」と雲の流れを確認しては足を止める。


肝心の花に辿り着く頃には、風が強まり花が大きく揺れ、ピントがぶれて撮れやしない。

ひとつ大きく深呼吸。

踊る花と呼吸を合わす。私が揺れる。そうしているうちに、写真など、もうどうでもよくなってしまった。
するとポツリと雨が降り出し、我に返る。


「来る」


雨で濡れた吊り橋を渡り、家路に向かった。吊り橋を渡り切ると、そこだけ乾いている地面があった。モミジの樹が傘になっているのに気づく。その傘の下で雲が急速に流れゆくのを眺めた。

空は、劇的に変化していった。

歩き出そうとした時、そのモミジの袂に人が立っていて、同じ様に空を見上げているのに気がついた。


足元には、未成熟な銀杏の実が既に転がっていた。

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窓際に座っていると、空を飛び交う影が無数に見えた。鳥の群れかと思ったが、風に飛ばされた森の木の葉たちだった。

それは突然起こった。

この窓から見える、一番高い樹があり、暴風に大きく揺られていた。
ベリベリと大きな音を響かせて樹は倒れ落ちていった。

あまりのショックに息を飲んだ。




夕方になり、嵐は一旦落ち着いた。猿たちが大騒ぎする声が響き渡っていた。
しかし、こうしてこの文章を綴っている間に再び雨足が強まり、時折空を明らめる光が走っている。

雷雨の音に耳を傾け、言葉を探しながら窓にかろうじて写るニワトコの葉が揺れるのを見つめては、パソコンに戻って我に戻る。を繰り返している。



夏が終わる。

めまぐるしい変化が訪れた今年の夏。台風のおかげで少し身体も心も調整する時間がもてたように思える。


雨風音のリズムを聴きながら。
風の音が恐くて、泣きながら力尽きたように眠りに落ちたという男の子が、朝まで目覚める事なく過ごせますように。

そう祈っている。


そして、私のひざで黒猫のヤブが丸くなって眠ったフリをしている。

嵐の日に。


あの樹がこの窓からの景色から消えていることを、私は明日の朝目覚めて改めて思いだすのだろう。


あの樹の事が、大好きだったと。





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粉雪舞う森の朝。

01 26, 2018
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睦月 月齢9

この森にも雪が積もった。

青空が広がりはじめた朝に、時折風が森を撫でていく。

気温の低さが雪を溶かすことなく、幹や枝葉にとどまった粉雪が風に舞う。
その舞いに合わせるように、光が刻一刻と変わってゆく。

ザワっと揺れる枝の音。
サワサワと舞う雪の音。

森が刻一刻と表情を変える。

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それは、不思議な雪だった。

降り出す直前まで、山の稜線近くに、くっきりと月が出ていた。日付が変わり降り出した雪は、今までに見たことがないくらい繊細な粉雪だった。

それは、不思議な雪だった。

サワサワと、粉雪が私に舞い積もる。全てに身を委ねるとは、このことだ。全く冷たくない雪だった。

あぁ、私は幸せだ。

とてもシンプルに、そう思った朝だった。


そして、今夜も雪予報。また明日も、目覚めるのが楽しみだ。


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雪が降ったものだから。

01 22, 2018
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睦月 月齢5

ここ数日、週明けに全国的に広い範囲で雪が降るという予報が、ラジオから連日流れていた。

なのに京都は雪ではなく、雨予報だった。
けれどそんなこと言われ続けると、その時が近づくほどに、ワクワクを便乗してしまうではないか。

以前住んでいた裏高尾でも、筑波山でも雪が積もってゆく様子が、SNSで友人たちの写真と共に流れきた。

皆どこか嬉しそうだ。特に山や森に住まう仲間たちは戸惑うことなく雪を謳歌している様子。
その地で数年前に見た雪景色が浮かぶ。



正直、ちょっと羨ましい。



と思っていたら、この森にも雪が舞いはじめた。
風のない日の雪は、遠くほどゆっくりと落ちる。実に優雅だ。そして山が白くなる次第に、空との色の境がなくなってゆく様を眺めていた。


雪はいい。

小さな芽吹きだけでなく、乾き切った落ち葉でさえも、凍えるほどの寒さの中に温もりを感じさせる。命の温度とでも言おうか。自分の体温も然り。

雪が何もない空から生まれてくるという、とてつもなく偉大な神秘に改めて、そして何度も感動し、飽きることなく眺めていた。
辺り一面、薄らと真白になっていった。

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雪は雨に変わり、雪は消えた。ノブドウの蔓に雫が伝っては落ちていった。

この冬、何度目の雪だろう。少し降ってはすぐに消える。
この冬、あと何度雪が見れるだろう。少しといわず楽しみだ。

今夜は冷え込んでいる。ホットワインを作る良い口実が出来た。雪が降ったものだから。少し多めにスパイスを効かせましょうか。

静かに夜が深まってゆく。今夜はぐっすり眠れそうだ。




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気がついたらば。

12 11, 2017
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師走 月齢22

「文章を書く気になれないんだよね」

何となくそんな秋を過ごしていて、気がついたらば冬になっていた。
書かないと書けなくなるのもわかっていながら、言葉にしない心地よさもあって今に至っている。

それでも写真だけは撮り続けていた。

京都に住まいを移し、はじめての秋は、あまりにも色とりどりに過ぎ去っていった。

誰にも見せることのない写真たちがまた溜まってゆく。
私が死んだ時に、私が目に写したものたちを夫が眺めてくれればそれでいいか、などと思ったりもする。

と、書き出しに困ってツラツラと書いて気づくのは、私は夫よりも長く生きることは考えてもいなかったのだな、ということだった。自分勝手さに驚く。

気がついたらば冬になっていた様に、私たち夫婦も、気づいたらば結婚4年目になっていた。色んなことがありつつも、時の流れは緩やかにも確実に何かを刻んでいるわけだな、と改めて想う。

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手の届かないところにあった葉たちが、今では足元に広がっている。
それはそれで嬉しくて、歩いてはしゃがみ、立ち上がっては歩き出し、振り返っては立ち止まり、そしてまた戻ってはしゃがみ、時を忘れる。

すっかり森いろに染まった頃に、ふと視線を感じる。
気がついたらば、初老の女性がオニギリを手に、ニコニコと嬉しそうにこちらを見ている。

「こんにちは。」声をかけてみる。
「こんにちは。」笑顔がこぼれる。

「いえね、あなたがあんまりにも嬉しそうで。私、こんな嬉しそうに散歩する人、はじめてでね。」

そう言われて、急にモジモジした。いつから見られていたのだろう。
「私は、そんなに嬉しそうにここに座っている人、はじめてです。」

ふふふ、と笑って彼女の隣に座り、一緒に森を仰ぐ。


紅葉シーズンが終わり、訪れる人も急に減った森は、静けさを取り戻していた。

「良い季節ですね」
「ええ、いつでも、そうですね」

ふふふ、と笑い、暫く他愛もない言葉を交わし、それぞれの家路に向かった。




落ち葉の色も日に日に褪せてゆく。
私の好きな冬の美しい色や香りが森に広がりはじめた。

こうして今年も冬に出会えることが、嬉しくて仕方がない。



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Current Moon
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プロフィール

Coo

Author:Coo
森のある暮らしを綴ったフォトエッセイ。 裏高尾、筑波山を経て、現在 京都・比叡山にて。 森の事、野草や薬草のこと、森料理、日々のあれこれなど。 森の風があなたのもとにも届きます様に。

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