コンコン様と、記憶を辿る緑のトンネルと。

06 16, 2015


水無月 新月

裏庭の森を獣道沿いに抜け山の小道に出ると、コンコン様のところに着く。

ご挨拶しようと近づくと、供えられたコップの水に、蟻が二匹浮かんでいた。

まだ息はあり、もがいている。

もがけばもがくほど波立って抜け出すことが出来ないでいるように見えた。

自分が完全に水に沈んでいないことに気づければ、浮力に身を任せ、アメンボのようにだってなれるだろうに。

そのまま見なかったフリをするのも、見守り続けることにも苦痛が伴い、手を伸ばし、コップを慎重に傾け、蟻たちを石の上に流し出した。


石に染み込む水跡の広がりゆくスピードが緩やかになると、それに合わせるかのような動きで蟻も動きはじめた。

あぁ、私はいつもこうして自分が見ているのが辛いからといって、つい手を出してしまう、と後悔をした。


一見その命のためであるかのような行為でさえも、実際のところは、そのいきさつの一部始終を知らない限り、その当事者にしかわからないものがある。
何が良いのかなんてわからない。

例えばこのタイミングで知らない人が通りかかったとする。
その人には、蟻に水攻めしている心ない人、と誤解される事だってあるだろう。

それで自分の中での価値観からくる善意を盾に攻めたてられたとしても、私はその人にわかってもらおうと事の事情を説明するだろうか。
(少なからず、本意はずれていたとしても、蟻たちへの罪悪感を持ちながら。)

恐らく、その人の言葉が流れてゆくのを気にとめながらも、蟻たちは実は泳ぎの練習をしていたのかもしれない、、いや、まてちがう、もしかして、、などと考えを巡らすことの方にエネルギーをきっと使ってしまうだろう。

私はそんな風に眉間を寄せながら、蟻たちが触角を丁寧に撫で慣らすのを見つめていた。


蟻たちは、何事もなかったかのように、それぞれ違う方向へと消えていった。




私はコップを戻し、小さくお辞儀して手を合わせた。

「今日も良いお天気ですね。」




そのすぐ先に、緑のトンネルがある。

私はそのトンネルがとても好き。


晴れた日、木漏れ日差し込む中を歩き行くのが好き。

けれど、トンネルに入る前に立ち止まって眺めるのはもっと好き。

すぐに歩み出してしまうのがもったいなくも思えて仕方がないほどに。



緑のトンネルは、私の足取りを解し、丁寧に歩ませてくれる。

このトンネルを歩いていると、いつも不思議と、誰かの事や、誰かの声(言葉)がふと頭をよぎる。


あぁ、どうしているかなぁ、、と。

まるで記憶を辿るトンネルのよう。


この日は、ふと、ある男の子のお母さんの言葉が流れていった。

「しっかり前をみて、時々後ろも振り返って(忘れ物があるといけないから!)、
9.5割の苦しみの中でひょっこり現れる「0.5割の喜び」を「最高に幸せ」と思える人でいてね」


歩いては時に立ち止まって振り返り、振り返ってはまた歩き出す。

その立ち止まるタイミングというのは、森を抜ける風だったり、小さな虫だったり、花だったり、鳥のアラーム音だったり、木々から落ちる雫だったり、、

自分のタイミングではないことが多い。

そのサインを汲み取り、受け取り、染み込ませてゆく一連の流れがギフトであると感じる。

大切な忘れ物に気づけるのも、そんな流れの一片であることが多い。



ポトリと私の頭に何かが落ちてきた。
足元に桜の実が散らばっていた。
見上げると桜の木が枝を堂々と広げ、ほのかな風に揺れていた。

シャツの裾をたくしあげ袋にし実を集めていると、義母の事が頭をよぎる。

母と一緒に食べた桜の実は酸っぱかったな、、、と。


「人生、辛いことは沢山あるけどね、素敵だったこと、楽しかったことを大切に見つめて歩んでゆくうちに、辛かったことも素敵な事のしまわれた棚と同じ場所に並べて眺められるようになるものよ。」


その日の夜、義母が何気なく残してくれた言の葉。


忘れないように繰り返し繰り返して緑のトンネルを歩く。


そうこうしているうちに、緑のトンネルを抜けているのでした。



緑のトンネルを抜けると、甘い花の香りが漂っていた。

全てをまぁるく包んでもらった、そんな気がしたのでした。



家に帰って、桜の実をお酒につけました。

美味しくなる頃には、私の棚も色んな彩りが並んでいるのだろうな。

そんな事を想って、ふふふ。


「夜更けに降り出した雨もあがりましたね、コンコン様。」


今夜は新月です。

関連記事
0 CommentsPosted in
0 Comments
Leave a comment
管理者にだけ表示を許可する
Top
Current Moon
CURRENT MOON
プロフィール

Coo

Author:Coo
森のある暮らしを綴ったフォトエッセイ。 裏高尾、筑波山を経て、現在 京都・比叡山にて。 夫の樹さん、黒猫のヤブさんと私Cooこと久弥子、ふたりと1匹、森暮らし。 森の事、野草や薬草のこと、森料理、日々のあれこれ、など。 森の風があなたのもとにも届きます様に。

最新記事
リンク
カテゴリ
最新コメント
mail
ご質問・お問い合わせ等はこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
Cooと繋がるアーティストさんたち
RSSリンクの表示