森寝。また森で。

04 06, 2016
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卯月 月齢28

cotoriの森にあの子がやってきた。

「合格したから会いに行くね。」

高校受験を終えた彼女から手紙が届いたのは、その少し前。
私は山の中腹にある小さな郵便局から返事を送った。

山から見渡せる関東平野の向こうの向こう、ずーーっと向こうに彼女と、彼女たちと共に過ごした森が在ることを想った。
「春だなぁ。」と想った。


彼女はバックパックを背負ってひとりではるばるやってきた。
桜の開花と共にやってきた。

彼女と最後に会ったのは、一年とちょっと前、私たち夫婦の引っ越しの日。
私が裏高尾の森を離れる数時間前だった。
ひょいっと現れて、ちょっとだけふたりで散歩をした。
別れの言葉を交わすでもなく、見送りというより「これから森にでも行くの?」とでも言いだしそうだったのが可笑しかったのを覚えている。




久しぶりに会った彼女は少し背が伸びていた。

森につくと、彼女は昔と同じく裸足になって歩き回っていた。


cotoriの森には、冒険隊の夏キャンプ以来、ティピー型のテントが常設されている。

「テントもあるよ。どうする?」と聞くと、
「いい。森で寝る。」と言う。


森寝。
つまり、野宿。


「そうこなくっちゃ。」

私は変わらぬ彼女に嬉しくなった。



彼女との森寝は2年ぶり。
前回はふたりで年越しに森寝をした。
初日の出を森で拝もうという企みだった。
あれから2年。


私たちはまず寝床を決め、必要なだけの焚き付けの杉の葉や枝を集め、薪を組んで準備万端にすると、夕焼けを見に出掛けた。

東の空から徐々に夜がすり抜け入ると、
感覚が研ぎすまされてゆくのを感じ出す。

さぁ、森の夜の訪れだ。

西の空から鳥たちの影が伸び入ると、
夜の森が動き出す気配を感じ出す。

さぁ、私たちがたまらなく好きな時間の訪れだ。


私たちは森に消える。
けれど、森に確かに在る。


焚き火は彼女に任せた。
火が消えかかっても冷静に、そして難なく火を復活させている。
暫く振りであることを感じさせない無駄のない動きで。

身体で覚えたことは忘れないのだなと、ジンワリと想った。
私たちが共に森で過ごして来た日々のことを、ジンワリと想った。


ちょっとずつ、美味しいものと。
ちょっとずつ、積もり積もった話と。
ちょっとずつ、変わった事と変わらない事と。


「あったか〜い」

彼女は、焚き火に裸足をかざしていた。
そして、時々大地と背中合わせになる。
そして、大きな溜め息をつく。


「あぁ〜、しあわせ〜」


きっと彼女は、この溜め息のために頑張ってこの森までやってきたのだろう。
きっと私も、この溜め息を一緒につくためにこの森で待っていたのだろう。


私たちの足はすっかりポッカポカで、大地は少しスモーキーに香しく身体に染み込んだ。


「今夜は寝たくない」と彼女。
「私はもう眠いけどね」と私。

ウトウトする私の側で、彼女は焚き火の番を全うしていた。

今が一体何時なのか、そんなことは会話にもあがらない。
私たちはそんな贅沢な時の流れの中に身を置いていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


初めて出会った頃の彼女は、まだ生まれてから8年ほどしか経っていない、あどけなさと純粋さがまんまの子で、はにかんでクニャッと笑う可愛い女の子だった。

彼女が初めての森冒険にやってきたのは、野草料理の回だった。

冒険前の自己紹介とその日にやりたいことをひとりひとり発言していく中で、
彼女は「くぅのお手伝いがしたいです」と言った。

私の心がポワリと暖かくなったのを今でも覚えている。


そして私たちは森へと出掛けた。

何度となく一緒に森へ出掛けた。
いろんな体験を共にしてきた。


そして気づけば、彼女の人生の丁度半分の期間を私は知っている事になる。

少し大きくなった彼女だけれど、笑うと初めて出会ったときのあのクニャっと笑顔のままだった。
少し大きくなった彼女だけれど、私にジャレてくるのは変わらぬままだった。


私たちを森で集わせていた「パレット森冒険隊」。
空と大地の教室「つきのわぐま」はもう存在しないけれど、
こうして繋がってくれている存在が未だにいるというのは、形なくなれど失いはしないことを感じさせてくれた。

時に歯をくいしばりながら、女手ひとつ、独り親方でやってきた活動だったけれど、
それゆえに、子どもたちは特にとても濃厚な関係を築いてくれたのかもしれない。



背は彼女にとっくに抜かされたけれど、何も変わらない私たちの関係が心地よかった。

きっといくつになっても、
彼女は私にとって、「同志」であることは変わらない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



今日から高校生になるキミへ。


ゆっくり大人になりなさいな。
そのまんまでいいから。
森で溜め息つきたくなったらいつでもおいで。

その時は、どんな溜め息でも受け止めるよ。

私たちはどこにいようと空と大地で繋がっている。
それぞれの内なる森が繋がっているよ。


Hちゃん、ありがとう。
キミがこうしていてくれるおかげで、わたしもこう在れるよ。

森よ、ありがとう。
あなたがこうしていてくれるおかげで、私たちがこう在れます。


またね。
また森で。


くぅ



追伸、

この春、旅立ちの一歩を踏み出した全ての人に、
この森から細やかに穏やかなエールの風をおくります。


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プロフィール

Coo

Author:Coo
森のある暮らしを綴ったフォトエッセイ。 裏高尾、筑波山を経て、現在 京都・比叡山にて。 夫の樹さん、黒猫のヤブさんと私Cooこと久弥子、ふたりと1匹、森暮らし。 森の事、野草や薬草のこと、森料理、日々のあれこれ、など。 森の風があなたのもとにも届きます様に。

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